意匠法の改正について
令和元年5月に意匠法が改正され、令和2年4月1日に施行されました。改正は多岐にわたっているのですが、そのうち建築物(土木構造物を含む)および内装が意匠の保護対象となったことから、その内容についてご紹介します。
1.建築物の意匠
(1) 建築物の意匠とは
建築物の意匠とは、ホテル、オフィスビル、商業用店舗、住宅、学校、競技場などの建築物の形状、模
様、色彩もしくはこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものをいいます。そして一定の
要件を満たすことにより意匠権を取得できることになりました。
店舗の建築物 ホテルの建築物
(2) 建築物を保護対象とした趣旨
従来、意匠法の保護対象は、物品すなわち「有体物である動産」を意味していたため、不動産である建築物は
意匠法の保護対象とはなっていませんでした。
しかし、昨今、モノのデザインのみならず、空間のデザインが重視されはじめ、企業が店舗の外観に特徴的な
工夫を凝らしてブランド価値を創出したり、サービスの提供や製品の販売を行うケースが増えはじめています。
こうした店舗デザインには、多額の投資がされることが多いため、デザインが簡単に模倣されるようであれば、
企業競争力の源泉であるデザインへの投資が減少する結果を招くこととなります。
そこで、令和元年改正により、建築物のデザインを意匠法で保護することにしたわけです。
(3) 土木構造物の意匠
建築物だけでなく、橋梁、ダム、電波塔、歩道橋、インターチェンジ、河川構造物などの土木構造物の
形状、模様、色彩もしくはこれらの結合であって、視覚を通じて美観を起こさせるものも意匠権を取得す
ることができるようになりました。
橋梁 電波塔
(4) 建築物の付随物
建築物または土地に継続的に固定し任意に動かさず、建築物に付随する範囲内の物品については、建築物
の意匠の一部を構成するものとして扱われます。
例えば、ウッドデッキ、ペデストリアンデッキ、門柱、敷設ブロック、グリーンウォールなどです。
2 内装の意匠
(1) 内装の意匠とは
内装とは、店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾をいい、内装の意匠とは、内装を構成する物
品、建築物または画像に係る意匠が、内装全体として統一的な美感を起こさせるものをいいます。
喫茶店の内装 図書館用図書室の内装(平面)
(板状の部材、椅子、テーブル等の什器について、いず
れも角を斜面状とした点に特徴がある)
オフィスの執務室の内装(平面)
(植物に関連する書籍を集めた図書室の内装であ
って、壁、天井及び各什器を木目調で統一し、上
方から空間全体を見渡した際に一輪の花のよう見
えるよう、各什器が配置されている)
博物館用渡り廊下の内装
(個人のユニットを六角形にし、蜂の
巣状に配置するとともに、平面視左
上と右下の台形部を、少人数で集ま
って議論するためのスタンディング
デスクとしている点に特徴がある)
(2) 内装を保護対象とした趣旨
昨今、モノのデザインのみならず、空間全体のデザインを重視する観点から、企業が内装のデザインに特徴的
な工夫を凝らしてブランド価値を創出する事例が増えています。
また、近年、オフィス家具・関連機器を扱う企業が、自社の製品を用いつつ、特徴的なオフィスデザインを設
計し、顧客に提供する事例が生じています。
これらの内装デザインは、多額の投資を行った上で設計されており、これが容易に模倣されるようであれば、
企業競争力の源泉たるデザイン投資の収縮を招くことになります。
そこで、今回の改正により、家具や什器等の複数の物品等の組合せや配置、壁や床等の装飾により構成される
内装が、全体として統一的な美感を起こさせるときには、そのような内装の意匠を一つの意匠として意匠権を取
得できることになりました。
(博物館の来訪者に太陽系の惑星の順序や大きさのイメージをわかりやすく伝えることを目的として、室内壁全体の大きさを太陽の直径と仮定し、各惑星を模した照明器具を順々に、かつ大きさの比率を再現しながら、来訪者の動線上に配した点に特徴がある)
水星
金星
地球
火星
木星
土星
天王星
海王星
冥王星