商標の業務内容
1.商標とは
商標とは、商標法2条1項に次のように定義されています。「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記
号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であって、業として商品を生
産又は役務を提供等する者が、その商品又は役務について使用するもの。」
要するに事業者が自己の取扱う商品や役務(以下「サービス」とします)を他者の商品やサービスと識別したり、ブランドを確立
するために使用する標識のことをいいます。
従来からある商標
⒧ 文字商標
文字のみから構成され、ひらがな、漢字、カタカナ、ローマ字、数字等により表されるもので、その文字が特定の意味や観念
を生じさせるか否かは問われません。
【登録番号】 第5819707号
【権利者】 日清食品ホールディングス株式会社
⑵ 記号商標
のれんや文字や紋章などを図案化したり、モノグラム化したものをいいます。
【登録番号】 第98702号 【登録番号】 第3089674号
【権利者】 三菱商事株式会社 【権利者】 日本生命保険相互会社
⑶ 図形商標
図形のみから構成されている商標をいいます。文字も装飾されたり図案化したものは図形商標となる場合があります。
【登録番号】 第3085606号 【登録番号】 第3059254号
【権利者】 ヤマト運輸株式会社 【権利者】 花王株式会社
⑷ 立体商標
平成8年に商標の構成要素として人物や動物や商品等を立体化した立体商標が追加されました。
【登録番号】 第4157614号 【登録番号】 第5225619号 【登録番号】 第6047746号
【権利者】 株式会社不二家 【権利者】 ザ・コカ-コーラ・カンパニー 【権利者】 ソフトバンクロボティクスグ
ループ株式会社
⑸ 結合商標
文字、記号、図形、色彩等を二つ以上を組み合わせた商標をいいます。
【登録番号】 第3289976号 【登録番号】 第1517133号
【権利者】 株式会社サンリオ 【権利者】 ナイキ インターナショナル リミテッド
新しいタイプの商標
近年のデジタル技術の急速な進歩またはサービスの販売戦略の多様化に伴い、企業は自らの商品やサービスのブランド化に文字や
図形のみならず、色彩のみや音についても商標として用いるようになってきています。
一方、諸外国では、色彩のみや音といった商標をすでに保護対象としており、実際に、こうした諸外国において我が国企業が出願
や権利取得を進めるケースも増加しており、我が国における保護のニーズも高まっていることから、平成26年改正により、「新しい
商標」が保護対象となりました。
⒧ 色彩のみからなる商標
これまでの図形等に色彩が付されたものではなく、単色または複数の色彩の組合せのみからなる商標であって、輪郭がなく、色
彩自体が保護対象となる商標をいいます。
【登録番号】 第5930334号 【登録番号】 第5933289号
【権利者】 株式会社トンボ鉛筆 【権利者】 株式会社セブン-イレブン・ジャパン
⑵ 音商標
CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などのように、音楽、音声、自然音等からなる商標で、聴覚で認識される商
標をいいます。五線譜または文章の記載と音源データの提出で音商標を特定します。
【登録番号】 第5804299号 【登録番号】 第5804565号
【権利者】 久光製薬株式会社 【権利者】 大正製薬株式会社
⑶ 動き商標
テレビやパソコン画面等に映し出される文字や図形等が時間の経過に伴って変化したり移動したりする商標をいいます。
【登録番号】 第5825499号
【権利者】 株式会社円谷プロダクション
⑷ 位置商標
商品やサービスの提供に供されるものに文字、記号、図形等を付する位置を特定することによって構成される商標をいいます。
【登録番号】 第5808808号 【登録番号】 第6027414号
【権利者】 富士通株式会社 【権利者】 株式会社クラウン・クリエイティブ
⑸ ホログラム商標
文字や図形等がホログラフィーその他の方法により看る角度や方向で別の表示面が見える商標のことをいいます。
【登録番号】 第5804315号 【登録番号】 第5908593号
【権利者】 三井住友カード株式会社 【権利者】 株式会社ジェーシービー
団体商標と地域団体商標
⒧ 団体商標
●事業者を構成員に有する団体がその構成員に共通に使用させる商標であって、商品やサービスの個別の出所を表示するもので
はなく、団体の構成員が扱う商品やサービスについての共通的性質を表示するものをいいます。
●後述する地域団体商標とは異なり、「産地表示」についてはそれが全国的に著名でない限りは、団体商標として登録すること
はできません。
●団体商標の商標登録を受けることができるのは、一般社団法人その他の社団(商工会議所、NPOなど)もしくは事業協同組合
その他の特別の法律により設立された組合(農業協同組合など)又はこれらに相当する外国の法人(欧州諸国のぶどう酒組合
など)に限定されます。そのため、財団法人、株式会社、フランチャイズチェーンなどは団体商標の商標登録を受けることが
できません。
⑵ 地域団体商標
●各地で地方の独自性を生かした特産品が作られていますが、こうした特産品に使われる「地域ブランド」のうち、「地域名」
と「商品名」を組み合わせた商標は、「夕張メロン」や「西陣織」など全国的に有名な商品等を除き、商標登録が認められて
いませんでした。しかし、平成18年から「地域団体商標」制度が導入され、「地域名」と「商品名」または「サービス名」を
組み合わせた商標でも一定の要件を満たせば登録が認められるようになりました。
●登録されるためには、次の要件をすべて満たしていることが必要となります。
①事業協同組合等の特別の法律により設立された組合、商工会、商工会議所、NPO法人(特定非営利活動法人)並びにこれ
らに相当する外国の法人による出願であること
②「地域の名称」と「商品名」または「サービス名」で構成されていること(図形や記号ではないこと)
③出願された商標が一定の地域で周知となっていること
●具体例
①商品について、「越前さといも」、「北海道米」、「有田みかん」、「神戸ビーフ」、「大間まぐろ」、「東京牛
乳」、「沖縄黒糖」、「京あられ」、「伊勢うどん」、「宇治茶」、「球磨焼酎」、「秋田鳥海りんどう」、「今治タオ
ル」、「紀州備長炭」、「九谷焼」、「博多人形」、②サービスについて「越後湯沢温泉」、「かっぱ橋道具街」、「保津
川下り」などが地域団体商標として登録されています。
2.商標権とは
独占排他権
商標権とは、商標権者が一定期間、登録商標を指定商品や指定役務に独占的に使用し、かつ、登録商標と同一または類似の範囲内
において第三者の使用を排除することができるという非常に強力な権利です。これを独占排他権といいます。
商標権取得のメリット
商標権は存続期間が10年ですが、他の産業財産権にはない更新登録申請制度を採用しているため、この更新登録申請を繰り返す
ことで半永久的に保持することができます。
そのため、登録商標を自己の商品やサービスに長年使用することができるため、その出所表示機能によって登録商標が周知・著名
となり、また、その品質保証機能によって商品やサービスへの信用が蓄積され、やがて他社との差別化を図るブランドへと成長し
て、会社、商品やサービスさらには商標自体の財産価値が高まることとなります。
商標をブランドまで昇華させることができれば、提供する商品やサービスの価格を有利に設定することが可能となり、低価格競争
を回避することが可能となります。
また、従来は単なる商品等のネーミングでしかなかった商標をブランド化するには、長年の営業努力や高額な広告宣伝費を必要と
していましたが、IT時代の到来により、ウェブサイトやSNSなどを利用して、短期間に、安価で、しかも広範囲にわたって商標を拡
散できるようになり、ブランドの構築に有利な時代となっています。
商標権を取得していないデメリット
一方、商標権を取得していない場合には、上述したメリットが得られないばかりではなく、自社が使用していた商標を後から他社
が出願しても商標登録を受けることができるため、他社の商標権によって、自社が先に使用していた商標を使用することができなく
なったり、ライセンス料を支払って使用させてもらうことになります。
また、先使用の主張も可能ですが、他社の出願時点において、自社の使用していた商標が周知となっていなければ先使用の主張は
認められません。
そのため、このようなリスクを回避するためにも商標登録をしておくことが重要となってきます。
3.商標登録出願に必要な書類
商標権を取得するためには、商標法や関連省令で定められている出願書類に商標等の内容を記載して、特許庁に出願する必要があ
ります。
商標は、自己の商品やサービスと他者のそれとを識別するために商品やサービスに使用するものであるため、出願する際には、保
護を求める商標およびそれを使用する商品またはサービスを特定する必要があります。その際、商品やサービスを複数指定すること
ができますが、同時に「商品及び役務の区分」も記載することとして、出願人が一の商標に関し、包括的に指定できる商品または役
務の範囲を定めています。
なお、商標については一の出願で一の商標しか記載することができない「一商標一出願の原則」が採用されていますが、区分につ
いては、出願人の便宜を考慮して一出願で複数の区分を指定することが可能です。
出願書類には以下のものがあります。
⒧ 願書
●商標の付与を請求する意思表示を明確にするための書面です。
●出願人の氏名や住所、商標、指定商品や指定役務、商品及び役務の区分、などを記載します。
●新しいタイプの商標を出願する場合には、「その旨」と「商標の詳細な説明」も記載することとなります。
⑵ 必要な書面
●出願人が出願商標または指定商品や指定役務などを特に説明する必要があると認めたときに提出する任意書面です。
⑶ 添付物件
●音商標を出願する場合には、所定の方式に従って記録した一の光ディスクを提出する必要があります。
4.商標登録出願の審査の概要
産業財産権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)についての監督官庁は経済産業省の外局である特許庁ですので、特許庁に商
標登録出願をしますと、特許庁の審査官が商標法等の法令に基づいて商標登録出願の審査をすることになります。
この審査に合格しますと登録査定という行政処分がなされ、所定の期間内に所定の登録料を納付しますと商標権を取得することが
できます。
特許出願の審査と異なる主な点として、
① 出願審査請求制度がなく、出願順に自動的に審査に係属することとなります。
② ライフサイクルの短い商品に使用する商標や期間途中で使用見込みのなくなった商標もあることを考慮して、登録料を前期と
後期に分割して納付することができる分割納付制度を採用しています。
③ 商標権の存続期間は、設定登録日を始期とし、設定登録日の翌日から起算して10年が経過した日を終期として、その間が存続
期間となります。
④ 存続期間を一応10年と定めることによって業務の廃止や不使用などにより空権化した商標を整理しつつ、必要な場合には何回
でも更新登録の申請を認めて、権利の永続性という商標権のもつ本質的な要求を満足させている更新登録申請制度を採用して
います。
それ以外につきましては、登録要件が異なるものの、基本的には特許出願と同様の審査手続きが行われることとなりますので、以
下に、商標登録出願についての主な審査フローのみを示し、審査手続の詳細については特許出願を参照していただくこととします。
本商標は、「ファイトー」と聞こえた後に、「イッパーツ」と聞こえる構成となっており、全体で約5秒間の長さである。
商標登録出願
出願から約2月
出願公開
出願人
特許庁
方式審査開始
手続不備の場合は補正命令等
実体審査開始
なし
あり
拒絶理由
通知内容検討
拒絶理由通知
意見書/補正
拒絶理由
解消
未解消
任意手続
不服審判請求
拒絶査定
登録査定謄本
登録査定
30日以内
分割納付制度あり
登録料納付
設定登録
商標権発生
登録から10年間存続
更新登録申請制度あり
商標公報
商標登録証
※ 出願から審査結果の最初の通知(主に登録査定または拒絶理由通知書)が出願人へ発送されるまでの期間の平均は7.9ヶ月(2018年実績―「特許行政年次報告書2019年版」より)
※ 出願から商標権の発生までの平均は9.3ヶ月(2018年実績―「特許行政年次報告書2019年版」より)
5.商標権の効力
商標権の法的効力
⒧ 商標権の効力とは、商標権者が登録商標を指定商品または指定役務に使用する権利を専有するという商標権の内容をいいます。こ
の効力は、登録商標の使用を独占する支配的効力(専用権)と、登録商標およびその類似範囲における他人の使用を排除する排他
的効力(禁止権)を併せ持っています。
具体的には、商標権の侵害に対して商標権者には民事的な救済措置が与えられ、侵害者には刑事罰が適用されることを意味しま
す。
⑵ 民事的な救済措置
民事的な救済措置としては、特許権と同様に①差止請求、②損害賠償請求、③不当利得返還請求、④信用回復措置請求が認めら
れています。
⑶ 刑事罰の適用
商標権を侵害した者に対しては、特許権と同様の刑事罰が適用されます。
商標権の効力制限
流通秩序を維持するといった見地から、商標権の効力が制限される場合があります。例えば、普通名称や記述的名称を普通に用
いられる方法で表示する場合や他人の出願前から周知な商標を使用していた場合などです。
商標登録の取消し
登録された商標はその指定商品や指定役務について適正に使用することが義務付けられています。これに反して正当な理由もな
く3年間継続して使用していない場合または品質の誤認や他人の商品等と出所の混同をさせるといった不正な使用をした場合に
は、取消審判の請求により商標登録が取り消させることとなります。