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<土木・建築分野における多様な知的財産戦略1>

1.建設業における知的財産の特殊性

知的財産のうち特に特許、実用新案、意匠、商標といった産業財産制度は、製造業を主なモデルとして設計されているため、現地屋外生産であり、かつ単品受注産業である建設業における産業財産活動には製造業とは異なる特有の性質が存在しています。

 住宅、ビル、工場といった建築構造物や道路、橋、ダム、トンネル、水道といった土木構造物を構築するには、鋼材、コンクリート、建具、仮設材といった様々な資材や建材を種々の建設機械や装置を用いて、創意工夫された工法と総合的な施工マネジメントによって工期の短縮、品質の向上、コストの抑制、安全の確保、環境負荷の低減といった多岐にわたる課題を克服しながら進められていきます。

 また、構造物の建造過程は、調査から始まり、仮設、土工、基礎工、鉄筋・鉄骨工、コンクリート工などの様々な工種から構成されており、多岐にわたる課題を克服するためにはこれらの工種ごとに創意工夫を重ねることが重要となるため、製品よりも施工方法に関する特許等の取得が多くなるという傾向があります。

 製品と比べて施工方法の場合には、施工過程が刻々と変化するため他社が無断で自社の施工方法を用いてもその侵害の発見や立証が容易ではないという問題が生じます。

 さらには、総合建設企業が、施主である官公庁や民間事業者が発注する工事を受注し、その後に元請企業が外注する工事を専門工事企業が受注するという重層的な分業請負構造が主流となっているため、先に述べた各種の課題を克服するための新工法や新製品に関する知的財産権を取得する意義は、主に受注を有利にするという効果を期待してのものになる傾向があります。

 また、建造物は不動産であるため、一般の製造業のように新製品を製造して販売するという流通過程に乗せることができず、新製品を大量に製造・販売して、市場を独占することにより大きな利潤を得るという、競争原理に基づく典型的な独占排他権の効果を十分に生かすことが難しいといえます。

 一方、従来から採用されている入札方式としては、標準的な施工方法や技術を前提とした価格を中心とした競争入札が主流を占めていましたが、最近では事業者から技術提案を受けて、発注工事に特有の課題を克服する新しい施工方法や技術といった価格以外の要素を総合的に判断する総合評価落札方式を採用しているものも増えてきています。

 そのため、新しい施工方法や技術について特許等を取得することにより、課題克服のための施工方法を独占的に実施したり、自社の技術力をアピールすることで、入札や受注を有利に進めることができるため、特許等の取得が入札等を有利にするといった効果が期待できるといった側面も有しています。

 このように建設業においても受注環境が変化してきており、官公庁をはじめとする顧客ニーズは多様化し、本格的な技術競争の時代に突入しつつあるといえます。こうした技術競争の時代を乗り切るためには上述した課題を克服するための付加価値を創出し、差別化を可能とする新しい技術の創出が不可欠となってきます。そして新たに創出した技術を効果的に活用するために重要なカギとなるのが知的財産制度の戦略的な活用ということになります。

 次回では、このような建設業における知的財産の特殊性を踏まえた中堅・中小建設企業における知的財産戦略について記述します。

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